優しい煉獄
カテゴリ:小説
日時:2005/05/15 14:09
コンピュータ上に構築された仮想世界は死者の街。人々は生前に自分の精神をバックアップしておき、死ぬと仮想世界で第2の人生を始める。この世界では、カネが続く限り永遠に生きていられる。カネが尽きると仮想世界から削除され、真の死が訪れる。現世と死後の世界の狭間にある、まさに煉獄。ただし意外に快適。
仮想世界で探偵を始めた主人公のもとに、「現世から」人探しの依頼が舞い込んできたところから物語りは始まる。 デーヴ森岡浩之の新シリーズ。
仮想空間というのはありがちだが、死者用で現世ともメールや電話でやり取りでき、生者も訪問可能というのはなかなか面白い。単に自分が知らないだけで、同コンセプトのSFがあるのかもしれないけど。
また、昨日まで「冷めなかった」コーヒーが、システムの変更により「冷めるようになる」のは、流行のオンラインゲームのバージョンアップを思わせる。
本書は4つの短編+エピローグからなり、すべて同一主人公の一人称形式。4つのエピソードからなる長編として読むこともできる。
どんでん返しや派手なアクション、スリリングな緊張感というものはない。筆者もそいう小説を目指していない。異なる世界のあり方自体を楽しめる人向き。神林長平の「モロSF」ではない作品が好きな人なら楽しめるかも。