関ヶ原 (上)
カテゴリ:小説
日時:2005/10/19 22:37
日本史上に名高い「関が原の戦い」を、秀吉の最晩年からじっくりと書き込んだ長編。
上巻は、秀吉の死とそれによって先鋭化した石田三成と加藤清正、福島正成ら武断派大名の対立、その対立を密かに煽る徳川家康。対立を治めようと老体に鞭打ち、豊臣家を案じ続けた前田利家の死と三成の奉行失脚。前田家謀反疑惑とそれをかわすために芳春院(まつ)を人質として家康に差し出すところまで。 「関ヶ原」と題するだけに、主人公は関が原で雌雄を決した石田三成と徳川家康である。あるときは三成視点で家康になびく諸大名を描き出し、三成の義憤を読者に突きつける。一方の家康視点では狡猾な策動をねちっこく描写する。
『城塞』でもそうだが、司馬遼の書く家康の腹黒いこと。やることなすこと汚いし暗い。だが、家康の意図が(読者にとっては)あまりにも明白なためか、それほど不快ではなかったりする。
家康とは違った意味で嫌われ者の三成もまた、司馬遼の筆になると魅力的である。確かに、あの大谷吉継が殉じたほどの男だし、ただのイヤなヤツであるはずがないのだけれど。
上巻はとにかく微妙な駆け引きが繰り返されるだけで、活劇てきな場面は少ない。が、この駆け引きが絶妙に面白いのである。